村上春樹と『1Q84』

冬休みに 『1Q84』を読んだ。

僕は村上春樹の熱心な読者ではないけれど、わりと読んでいると思う。特に短編が好きだ。彼の書く文章に「快楽」があるという人がいるけど、僕も彼の文章を読んでいるとなんかいい気分になる。そしてそんないい気分になっている自分がちょっと恥ずかしくもなる。僕は村上春樹の小説が好きな人は「普通の人」で、良さが分からない人は「普通じゃない人」、嫌いな人は「ひねくれている人」だと思う。

村上春樹の文章の気持ちよさは何かというと、まずはその「やれやれ」という言葉に代表される醒めた視点が、世の中のいろいろ面倒くさいことはくだらないんだよ、ということを示していて、それによって僕ら普通の人は「確かにくだらないよなあ。そんなことに気をもむ必要なんてない」と感じられ、世の中の面倒くさいことからの解放感を味わえる、ということだと思う。よって、世の中のいろいろ面倒なことを最初から気にしていない、器の大きい人やぶっ飛んでる人、浮世離れしてる人にとっては、よさがあまりわからないのではないか。批判的な人はそんな人が多いと思う。

また、村上春樹の小説に出てくるのはだいたい普通の人で、特に出世欲とか名声欲とか金銭欲はない人ばかりである。このやたらと自己啓発/自己実現、と煽られる現代社会において、彼の小説は「普通の生活」の奥深さや味わいを醸し出しているので、われわれ普通の人は、自分なりにこだわりをもって工夫すれば普通の生活でも十分楽しいんだ、ということに改めて気がつく。そしてそれは「人間だもの」とか「ナンバーワンじゃなくてオンリーワン」などの薄っぺらい脱力系/癒し系のメッセージではないので、自分なりの信念を持って、努力して普通の生活を送っている人にとってはとても共感できる。

こういう類いの「気持ちよさ」が特に短編には凝縮されている気がして、僕は好きだ。

そんな僕が今回『1Q84』を読んでの感想を、BOOK3が出る頃には忘れてしまいそうなので、書いておこうと思う。整理する時間がないのでバラバラだけど・・・

○改めて村上春樹は団塊の世代の作家だなあ、と思った。学生運動とか、新興宗教がテーマの一つになっていて、マクルーハンの「メディアはメッセージだ」という引用が出てきたり。この辺を読んで、ちょっと古いなあ、彼は21世紀の作家ではないなあ、と思った。僕はこの辺の時代に興味があるから楽しく読めたけど、たぶん今の若い世代にとってはこの辺のテーマはそれほど切実には感じられないと思う。でも逆にこのテーマにいまだにちゃんとこだわっているのは偉いと思う。

○Radioheadのトムが "Hail to the Thief" を出した時のインタビューで、ねじまき鳥クロニクルを引き合いに出して言っていた、"あらゆる人間に取り憑いて邪悪な力を引き出してしまうダークフォース"というのが今回も大きなテーマになっている。

○本当は大事な概念なんだけど、語られすぎて陳腐化し、手垢のついたクリシェになりがちな「資本主義」「物質主義」「革命」とかをカタカナにすることでよりニュートラルに受け止められるようになっていた。

○文章を読んで、うまいこと言うなあ、というところもあったし、奇を衒いすぎて気に障るところあった。そういう意味では、やっぱり余計な部分が削ぎ落とされている短編の方が好きだなあ、と思った。

○「いかにも頭の悪そうな○○○(忘れた)が軽自動車を運転している」みたいな表現があったけど、そういう言い方は「つぶされる卵の側に立つ」って言ってた作家としてはどうなの、と思った。あと、最後の方の、ふかえりがどんな風に美しいか、という描写が、けっこう普通過ぎて拍子抜けした。大事な登場人物なのに。

○「ブン」という犬が出てきて、僕が最初に飼った犬の名前と同じだったのでうれしかった。

テーマに何か既視感があったので、これはすげえ!とは思はなかったけど、楽しく読めました。 そしてこういう文学的な小説がちゃんとベストセラーになって200万部も売れる国って実はあんまりないんじゃないかと思って、日本も捨てたもんじゃない、と思った。一方で、200万部売れたけど、それも人口の2%にすぎないんだよなあ、とも思った。それに比べテレビの世界では視聴率2%、200万人でも話にならないわけで、そういう意味で視聴率2桁が普通なテレビはまだまだ影響力を持っているし(社員の待遇が良すぎるんで会社が赤字になるのは当たり前)、 視聴率数パーセントの番組でも『1Q84』と同じくらいのインパクトはあるのでそういう番組も大事にしてほしいと思いました。

今日の一曲:

(500)Days Of Summerのサントラばっかりきいてます。

0 コメント:

Blogger Templates by Blog Forum